彼の瞳に独占されています
クスクスと笑った彼女だけれど、その厚めの唇は次にこんなことを言う。


「淳一さん、本当に先輩のことを大切に思ってるんですね」


なんだかしみじみと口にされた一言は、嬉しくもあり、複雑な気分にもさせられる。

そして、また胸に少しだけチクリとした違和感を覚える。けれど……こんなものは気のせいだ。気にしちゃいけない。


「マブダチ、だからね」


そう言って、短冊から顔を背けて歩き出すと、弥生ちゃんも「その言い方、古くないですか」と笑いながらついてくるのだった。



ランチを終えた後、私は交代で休憩に入る永瀬さんを引き留めた。それなのに、すぐに切り出せないでいる私を、彼は不思議そうに見つめる。あぁ、なんか緊張……。

でも、淳一にも背中を押されているじゃない。今度こそ、幸せを掴んでみせるんだから。

ひとつ息を吸い込んで、思い切って口を開く。


「遅くなっちゃいますけど……誕生日、祝わせてください。ふたりで」


その瞬間、永瀬さんの顔に優しい笑みが広がり、「ありがとう」と言ってくれた。


彼を前にすると、胸が温かくなるし、ドキドキもする。ちゃんと、恋の始まりを感じられる。

きっと私は、永瀬さんのことを好きになれる──。




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