彼の瞳に独占されています
彼はさらに詳しい説明を続ける。


「元々日本では、座敷においての擦れを防止するために付けられたものでした。その文化の影響や、スラックスのタイト化で靴擦れが痛まなくなってきたんです。なので、付けないテーラーさんもいるのだと聞きました」


そうなんだ……!と感心しながら聞いていると、同じく納得したらしいお客様もふむふむと頷く。


「なるほど、そういうことなのか。あれはブランド名も入ってるし、マニアには嬉しいものなんですけどね」

「こちらではすべてに靴擦れをお付けしておりますので、ご安心ください」


気を良くしたらしいお客様に対し、丁寧な接客を続ける永瀬さんに、私は尊敬の眼差しを向けた。

彼は今だけじゃなく、お客様のどんな疑問にも要望にも、いつも難無く対応している。そんな姿はとても格好良いし、私もああなりたいと憧れたりもする。


上司として、男として、やっぱり永瀬さんは素敵な人だ。

そう実感するたび、胸の中の蕾が膨らんでいく。彼と新しい恋が始まるかもしれない、という期待が。


この私の気持ちが大きく前進するかもしれない約束の日は、もう三日後に迫っている。

実は、最初は食事だけのつもりだったのだけど、偶然休みが重なる日があったため、食事の前に少し出掛けることになったのだ。

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