彼の瞳に独占されています
「永瀬さんのこと尊敬してます。上司としても、人としても素敵だなって思ってるんです、本当に。でも、そういう上辺に惹かれてるのも事実で……。こんな不純な気持ちで向き合うのは失礼だと思うんです」


素直な気持ちを、一気に連ねた。

これで軽蔑されたらそれまでだ。むしろ、その方がお互いにとっていいのかもしれない。

彼は、私みたいな浅はかな女と付き合うべきじゃない。


「だから、私、永瀬さんとは──」


“いい仕事仲間でいたい”……そう言おうとしたけれど、声に出すことができなかった。

片腕を掴まれた次の瞬間、私の唇は、彼のそれで塞がれてしまったから。


──う、そ。何で、キスなんて……!?

息が止まる。身体も固まって、触れ合う唇に全神経が集中する。

柔らかな熱が離れていくと、まだ吐息を感じる距離で私を見つめる永瀬さんは、思いのほか優しい顔をしていた。


「その正直さに、僕はますます惹かれるんだけど」


予想外にも愛おしそうに頬を撫でられて、私は胸を鳴らすと同時に、顔が熱くなるのを自覚する。


「っ……ダメですって、私なんて!」


困ったように眉を寄せて、両手で彼の胸を押し返す。けれど、永瀬さんは小さくははっと笑った。

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