彼の瞳に独占されています
「淳一は知ってると思うけど、うちはお金がなくて、お母さんも苦労してたんだよね。お父さんが死んじゃってからはなおさら」


父は、私が高校一年の冬に事故で亡くなった。母と私、そして二歳下の弟を残して。

中小企業で課長として働いていた父だったけれど、その収入はあまり多くはなく、私たちの学費を払うのもやっとなくらいで。彼が亡くなってから、母は朝から晩まで働き、私もバイトを詰めてなんとかやりくりしていた。

そんな、決して裕福とは言えない家庭で育ったせいか、気がつけばハイスペックな男性ばかり選ぶようになっていたのだ。しかし……。


「でも、お母さんは幸せそうだった」


沈みそうな太陽の光に目を細め、彼女の言葉を思い出す。『お父さんと結婚したこと、後悔してないの?』と、私が何の気なしに聞いたときのことだ。

母はあっけらかんと笑い、『後悔なんてするわけないじゃない。好きな人と一緒になれたんだから』と、迷いなく答えていた。

そのとき母が指南してくれた大事なことを、私は忘れてしまっていたのだ。


「私、条件ばっかり気にしてて、肝心な好きって気持ちがおざなりになってたんだって、弥生ちゃんに言われるまで気づかなかった。……ていうか、気づかないフリをしてたのよね」

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