彼の瞳に独占されています
「……ありがと。今日は連れ出してくれて」


素直にお礼を言い、昨日のことを打ち明ける。


「昨日、弥生ちゃんとちょっとケンカしちゃってね。淳一はそのこと知ってたの?」


隣に目を向けると、彼は再び海を眺めて、真相を教えてくれる。


「俺の同僚もビアガーデン行ったらしいんだ。そこで言い合ってた女子がいて、よく見たら紳士服売場の姉ちゃんふたりだったって言うから」

「そっか……見られちゃってたんだ」


あんな場面を見られていたなんて恥ずかしい。人前で言い合ってしまった私たちがいけないのだけど。


「萌が弥生ちゃんとケンカするなんて珍しいから、きっと落ち込んでるだろうなと」


何気ない調子で言うけれど、自分のことを気にかけて、こうやって元気付けてくれる人がいることは、どれだけ嬉しくて幸せなことだろう。

それなのに私は、なんて視野が狭い女なんだろうか。


「……淳一は本当によくわかってるね。私は、自分の気持ちすらわかってなかったっていうのに」


抱えた膝に目線を落として、力無い声をこぼした。

淳一はどんなことで揉めたのかを聞くことはなく、私が話し出すのを黙って待っている。

しかし、開いた私の口から出るのは、昨日のケンカとは直接関係のないこと。

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