彼の瞳に独占されています
『なんか、萌とは何年経ってもこうしていられそうな気がするな』


それはたぶん、“お互いに一番近いところで、笑ったり言い合ったりしていられる”ということなんだろう。

淳一がどんな心境でそう言ったのかはわからない。ただ、別れた後なのだから、友達としてという意味に決まっている。

それでも私は嬉しくて、彼のシャツをきゅっと握り、『そうだね』と返した。


あれから約八年が経って、言った通り今もこうしているわけだけれど、お互い変わらずにいられたのは奇跡のようなことだと思う。

友達としてでもいいから、これからもずっとそばにいたいと願う。けれど、それが苦しいことも事実。

この想いを伝えられたら、ラクになれるのだろうか。


「淳一!」


信号待ちをしているとき、声を張って呼ぶと、彼は「んー?」と少しだけ振り返る。

服を掴んでいる手にきゅっと力を込め、聞こえるはずもない小さな小さな声で、ぽつりと呟いた。


「…………好き」


なんだかそれだけで目に熱いものがこみ上げてきて、彼の背中がぼやけていく。


「なにー? 何か言ったか?」

「……なんでもなーい!」


今度は大きく叫んで、背中にヘルメットを押し当てて抱きついた。

あぁ、なんて臆病者なの。淳一の反応が怖くて、こんな告白しかできないなんて。

闇を切り裂くように走るこのバイクのように、難しいことは考えずに突っ走れたらいいのに──。




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