雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
「そっちこそ、早いじゃん」


「まぁ。じゃ、行く?」


「うん」


 律樹に促されて、花火大会に向かう人達の列に入り、並んで歩き出す。律樹がずっと黙っているので、那子は不安になりそっと隣を見上げた。


「――!!」


 視線が合って、驚いた那子が目を見開くと。


「……いいな、その浴衣」


「そ、そう?」


 那子は恥ずかしさに慌てて目を逸らし前を向いたが、もう一度律樹を見る。


「よく、似合ってる」


「……ありがと。今宮も、ね」


 小さな声で言うと、律樹はフフッと笑った。少し緊張がほぐれた気がして、那子も同じように笑う。

 こうして律樹と並んで歩いている事が、どこかまだ信じられなくて、那子はフワフワした気持ちで下駄をカランコロンと鳴らして歩いた。
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