雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
 穂香が立ち寄った店へと足早に歩いている時だった。穂香の目の前に、こちらに向かって歩いてくる帆鷹の姿があった。その隣には野原絵里奈がいて、楽しそうに並んで歩いている。穂香は急いで目を逸らすと、何食わぬ顔ですれ違おうとした。


「中崎」


 帆鷹に呼び止められ、穂香は焦りを隠せないまま振り返る。


「どした? 何かあった?」


 思いもよらない言葉をかけられて、穂香は首を振ると、そのまま歩き出した。

 財布を無くしたところにきて、野原絵里奈と帆鷹に遭遇。ついてないを完全に通りすぎた穂香の瞳からは、ぽろぽろと涙がこぼれ始めた。

 こんなに人通りが多いところで、落としてしまった財布はきっと見つからないだろう……。それでも探さなきゃ……。

 焦りと不安と千咲希への申し訳なさを抱えながら、穂香はこぼれる涙を必死に拭いながら歩いた。
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