ミラージュ
本当は違うけど、本当の理由なんて言えないからそういうことにする。
呆れた様に溜め息をつき、シャツの裾で無理やりあたしの涙を拭いてから言った。
「もう泣くなっちゃ。俺のモナカやるけぇ」
モナカならまだ食えるだろ?良平は袋からモナカの袋を取り出してあたしに渡す。
きっと今良平は、呆れながらも笑ってて。
その笑顔があたしは、誰よりも大好きで。
夏の教室。
蝉の鳴き声。
溶けたバニラアイスの甘い香り。
涙を隠すふりをしながら、あたしは良平に抱きついた。
良平の手からモナカの袋が落ちる。
ぺしゃっという間抜けな音が、蝉とあたしの鳴き声だけの教室に響いた。
ここまでしても。
ここまでしても、あたしは良平に伝えられない。
『好き』だって一言。たった一言だけなのに。
あたしの頭の上で、軽く良平の溜め息が聞こえた。
そして彼の手が、あたしの頭にポンッと乗る。
さっきまでモナカを持っていた手だからか、微妙に冷たい。
良平は何も言わなかった。言わないまま、あたしの頭を撫でてくれてた。
その手があまりにも優しくて、あまりにも愛しいから、あたしの涙は止まるわけがなかった。