毛づくろう猫の道しるべ
「なんて嘘。ちょっと見栄を張りたかった」

「だけど、近江君は本当に勉強できるじゃない」

「さあ、どうかな。自分では頑張ってるけど、俺は勉強できるタイプではない。気を緩めたらすぐに脱落するような人間さ」

「私はそうは思わないけど」

「それは遠山が俺の事を何も知らないから、上辺だけ見て判断してるってことさ。もっと内面をみたら、人それぞれ抱いていたイメージと違う部分が現れるぞ」

「えっ?」

「遠山は無理しすぎて、本当の事を知ろうとしてないだけさ。まあ、俺も偉そうな事を言えた義理じゃないけどな。俺も最近まではそうだったしな」

 一人ペラペラと自分の事を話す近江君を見たのは、これが初めてかもしれない。

 近江君は持っていた本をまた本棚に戻し、そして私と向き合った。

「俺さ、なんだかわからないんだけど、お前の事が気になるんだよ」

「えっ?」

 体の芯からドキッとしてしまった。

「昨日も俺が虐められてると思ってあんな行動を起こしただろ。あんな風にされたら、余計に気になるじゃないか」

 ぶっきら棒にまっすぐに見つめられると迫力を感じて、どう対処して良いのかわからない。

「ご、ごめん」

「だからなんでそこで謝るんだよ。お前は常に人の顔色を見すぎだ。もっと堂々としたらいい。上辺ばかり気にしてたら後で後悔するぞ」

 近江君の言葉がなぜか胸に突き刺さった。

 自分でも自覚があったから、はっきりとそんな風に言われると堪らなく苦しくなった。
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