さよならはまたあとで
私の家から学校はそう離れていない。
「日高」の文字が刻まれたプレートが埋め込まれた塀の前に着くと、律太は「じゃあ」と言って帰ろうとした。
その瞬間だった。
お母さんがドアを開けて私たちを見つけた。
お母さんは私たち二人を驚いた顔で見つめる。
「こんにちは」
律太が軽く会釈をする。
それにつられたように、お母さんもお辞儀をした。
「送ってもらったの、この前話した律太君」
お母さんは目をパチクリさせながら律太を見つめた。
「ありがとう、律太君。そうだ、夜ご飯食べていきなよ」
お母さんは常に突然だ。
「いや、さすがにそれは恐れ多いです」
律太はいつもは決して使わないような丁寧な言葉で返事をする。
「気を使ってるなら気にしなくていいのよ。今日、お父さんが急に飲み会になってね、ご飯余っちゃうところだったの。だから、ぜひ」
律太が私に視線を送ってきた。
「どうしよう」の顔。
「時間は?大丈夫なの?」
私はそんな律太にそっと聞いた。
「うん、今日は大丈夫」
「じゃあ、食べて行きなよ」
律太は頷くと、「お言葉に甘えさせていただきます」と言って、玄関の屋根の下で傘を閉じた。