さよならはまたあとで
先に律太を玄関に上げて、そのあと日常続いて私が入る。
お母さんが最後に扉を閉めてくれた。
「二人とも、ちょっとここで待っててね。
タオル持ってくるから」
お母さんは慌ただしく廊下の奥へと消えていった。
律太も私も、片方の肩だけ雨で濡れていた。
ちらりと律太を見ると、彼は何かをじっと見つめていた。
なんだろう、と覗き込むと、それは私と燈太が遠足の時に撮った写真だった。
これは数少ない燈太とのツーショットのうちの一つで、私は毎朝、写真の中の燈太に「いってきます」を言う。
もちろん、「ただいま」も。
「やっぱり律太君に似てるでしょ」
私がそう言うと、律太は静かに頷いた。
「本当、そっくり。こんなに身近に似ている人がいたなんて笑っちゃうね。
この人はどこの高校に通ってるの?」
律太がこちらを向くのと同時に、私は下を向いた。
「もう、いないんだ。……死んじゃった」
私の唇は震えていた。
きっと声も震えていた。
隣で律太が息を呑む気配を感じた。
そろそろ寿命を迎える廊下の蛍光灯がちかちかと明るくなったり、消えたりを繰り返している。
私はパッと顔を上げ、「ごめんね、暗くなっちゃった」と無理やり笑った。
「いや、こっちこそ…」