【短編】あいのうた
 円周率の暗唱は、奈々への愛の歌、というばかりではない。

 他に誇れるモノもない、僕の自信であり『僕』を形成する全てだったのに。

 円周率の暗唱で、世界一になることを夢見てから。

 就職さえもあきらめてずっと、努力をしてきたのに。

 こんなに、もろく。

 弱かった、僕の世界………!

 僕の全てを賭けた世界は、こんなに簡単に壊れてゆく。

 莫迦みたいだった。

 あまりに、莫迦みたいで………笑えた。




 あははははは……!





 涙を流して、ヒステリックに笑う、僕の背中に。

 声が響いた。



「……大滝さん……?」






「ああ……どうも」




 心配そうな、口調に。

 流れる涙を拳で拭いて、振り返れば。

 そこに、井上教授が立っていた。
 

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