それを愛だというのなら


「まさか、バイクで登場とは思わなかったよ」

「そっか。言ってなかったっけ。実は前に一緒に帰れなかったの、こいつを学校の近くに隠してあったからなんだ
よね。一緒に見つかったらまずいと思って」


暑そうにジャケットを脱ぐ水沢くんに、ドキッとする。

いけない。男の子が服を脱いでいるのをガン見して、勝手にドキドキしてどうする。

ジャケットの下は飾り気のない無地の黒Tシャツで、下は普通のデニム。

そんな姿なのに、なぜかすごく決まって見えるのは、整った顔のおかげなのか。すらりとした体型のおかげなのか。

少し見惚れてぼーっとしていると、水沢くんが穏やかな笑みを浮かべ、ぽんぽんとポニーテールにした私の頭を叩いた。


「可愛いじゃん」


かっ……!


「いいね、このフサフサ」


そう言う彼の指が、少し巻いてポニーテールにした私の髪をもてあそぶ。

あわわわ。ど、どうしたらいいの。そんなに見つめないで。


「よし。じゃ、行こう」


どう反応して良いかわからずに固まった私の肩を、彼がぽんと叩く。

すると、まるで催眠術からとけた人のように、すっと体が動いた。

もう……本気で言っていたのか、からかわれたのか。

やっぱり、つかみどころのない人だ。



< 64 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop