それを愛だというのなら
「うるさいな」
メガネの男子が、私の前に出た。
そして、肩をドンと突き飛ばす。
ごく軽い力しか入れてないように見えたのに、私の身体は簡単によろめき、尻餅をついてしまった。
「何してんだよ!」
それまで恭順の姿勢を貫いていた健斗が、声を荒らげ自転車を放り投げる。
後ろからメガネ男の肩をつかみ、彼が振り向いた瞬間、その頬に向かって握った拳を突き出した。
「健斗、ダメ!」
咄嗟に叫ぶと、健斗はピタリと動きを止めた。
その硬そうな拳は、メガネ男の顔に当たるか当たらないかのところで静止する。
「ケンカか?」
「おい、お前ら何してんだ」
準備中だった焼き鳥屋のおじさんが出てきて、私たちに向かって怒鳴る。
「行くぞ、瑞穂!」
拳を下げた健斗はそう言うと、自転車を置き去りにしたまま、私の手を握って強い力で引き寄せ、起こす。
私は彼に引っ張られるまま、商店街を全力で駆け抜けた。