それを愛だというのなら


今まで、何かイベントがあっても、私がお腹いっぱい食べられなかったから、脂っこいものは食卓にはあまり上らなかった。

だから、せっかく病気が治って初めてのイベントだし、とはりきってくれたんだ。


「お母さん……ごめん。ごめんね。大好きだよ」


涙が零れそうになった。

お母さんは何も変わっていない。

自分のことばかり考えている、私が悪かった。

病気の頃には毎日感じていたお母さんへの感謝が、元気になって恋をして、どこかに隠れてしまっていた。

なんてひどい娘なんだろう、私は。


「いいのよ。さ、食べよう食べよう」


お母さんは笑いながら、温めたお吸い物をテーブルに出してくれた。

こんな温かいご飯が食べられるのも、あと少しなんだ。

そう考えると、家にいる時間がとても貴重なものに感じられた。

残された時間は、あと一か月半くらい。

家族、友達、そして健斗。

全部を記憶に焼き付けるのに、いったいどれくらいかかるだろう?

足りない。全然、時間が足りないよ……。


< 96 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop