笑って。僕の大好きなひと。

忘れ物がないかチェックをすませ、かばんを持って出発する。
――と、その前に。

わたしはかばんを一旦置いて、リビングの真ん中に立った。

……深呼吸。二本の腕をぴんと上に伸ばし、鼻からめいっぱい息を吸いこむ。
それから大きな円を描くように、腕を横に下ろしながら息を吐き出す。

突然の行動に、両親がきょとんと目を丸くしてこちらを見た。

ふたりの注目を浴びながら、今度は腕を大きく振って、足の曲げ伸ばし。ちょっとガニ股で恥ずかしいけど、照れを捨ててやってみる。

やっと意味がわかったらしく、お母さんたちから温かい笑いがもれた。


「環ったら」


子どものころ、毎朝の日課だったラジオ体操だ。

あの頃のように、お母さんが少し音程のずれたメロディを口ずさみ、お父さんが足だけでリズムをとる。

カーテンの隙間からは、金色の朝陽がきらきらと射しこんでいた。


   ***

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