ラブ パラドックス
駅へ急ぐ夏目くんに引っ張られながら、なんとか歩くことができた。


亡き父との突然の別れ。

あの時のあの衝撃が鮮明に思い出され、不安と恐怖で足がすくむ。

こみ上げる涙で、瞼が熱い。


怖い。



「葉月」


歩みの速さはそのままで、前を見据えた夏目くんが、繋いだ手に力を込める。


言霊(ことだま)だ。上向いて、”大丈夫”って口に出せ」


上を向くと涙がこぼれた。

怖くて仕方ないけど、夏目くんの言葉が私に勇気をくれた。

少し、冷静になれた。


———大丈夫


一度、心の中でつぶやいた。


うん。大丈夫。


「大丈夫」

言葉にすると、前を向いたままだった夏目くんが振り返った。

優しい弧を描く瞳が、安心を与えてくれる。


「夏目くん、ありがとう」

”大丈夫”と繰り返し唱えながら、駅へと急いだ。
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