ラブ パラドックス
「ごめんなさい。俺そこまでできた人間じゃないんで、夏目さんにおめでとうは言えないです」
「いや、それは」
「中村も悪かったな。上司と友達の間で苦しかっただろ」
「俺は大丈夫です!」
「そっか」
わざわざ追いかけて声をかけなかったほうが良かったかもしれない。
こんな、何も言えない上に、言いたくないことまで言わせてしまったかもしれない。
「じゃあ失礼します。中村、俺明日本部に顔出してから出勤だから」
「承知しました。お疲れさまでした」
「あの、」
帰ろうとした店長を引き留める。
「うまく言えないんですけど、俺あなたには直接伝えたかったんです。伝えなきゃいけないと思ったんです」
「ライバルって認めてもらえてたんですね」
競泳でよく見られるシーンだが、ゴールした直後にタイムを確認し、勝っても負けても互いの健闘を称えあう。
あの場面が脳裏に浮かんだ。