ラブ パラドックス
【番外編】感謝
凛子が亡き父の夢を見るように、俺も溺れる夢を見る。



いや、見ていた。

最近はほとんど見なくなった。


泳いでも泳いでも進まない。息が出来なくなりもがく。プール底に引きづり込まれるなど、まだまだ豊富なバージョンを取り揃えているが、全てに共通するのは『苦』だった。


久しぶりに見た泳ぐことに関する夢は、今までのそれとは真逆のものだった。


夢うつつでぼんやり目が覚めた。凛子の寝顔が目の前にあって、この上ない幸せを感じた。



キラキラ輝く海面が、すげえきれいで。

夏の強い日差しではなく、柔らかな暖かい()の光を浴びて、凛子を浮き輪に乗せて、俺も波に揺られ、とにかく気持ちいい夢だった。


今日は遺言のススメセミナーだ。もうすっかり講師は俺に定着したが、毎回楽しくやらせてもらっている。セミナーだから気持ちが高ぶったか?


まだ起きるには少し早い。

このままもう少し。と、凛子を抱き寄せ目を閉じた。
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