ラブ パラドックス



「夏目先生お疲れ様です。今日も笑いあり感動ありでした。今いいですか?」


舞台裏でプロジェクターを片付けていたら、事務の女性に声をかけられた。凛子が麻紀姉さんと呼んでいる、俺たちより少しだけ年上の女性だ。


「お疲れ様です。大丈夫です」

「受付に川原と名乗られる男性がいらして、もしよかったら夏目先生に一言挨拶したいっておっしゃられてて…」

「かわはら?」


うーん、誰だろうか。受け持った顧客じゃないし、今日の参加者だろうか。

特徴は?と聞こうとしたのを遮ったのは麻紀さんだった。


「セントラルスイミングセンターって言えば思い出してもらえるかなっておっしゃってました」

「コーチ?」


一気に体温が上がる。まだセミナーが終わったばかりで、そうでなくても高揚しているのに。


「どこですか?」

「このホール出てすぐ正面玄関近くのベンチでお待ちです」

「ありがとう!」


壇上脇の階段を駆け下りながら麻紀さんに声をかける。


「凛子どこだ?申し訳ない、葉月先生呼んで来てもらっていいですか?」

麻紀さんが「承知しました」と微笑む。
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