ラブ パラドックス
昨夜の記憶がどんどんよみがえる。

思い出せば出すほど、消えてしまいたいほど恥ずかしくて、申し訳ない。



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「もう胃液も出ない」


トイレにぐったり座り込んでいる間中、夏目くんは背中をさすってくれる。

狭いトイレでドアを背に、夏目くんにしがみついて、洗いざらい告白した。


メソメソと、半泣きで。


「わたし、女学院に幼稚舎から通ってて」

「女学院って、あの?」


うん、と頷く。この辺じゃ、幼稚舎から大学まで一貫教育のお嬢様学校として有名だ。


「父親が県議だったの。そろそろ国会議員に出馬って言われてた父が、私が高校三年生の四月に亡くなったの。交通事故で突然」

え、と驚き、わずかに目を見開き見つめる夏目くん。


はじめて自分から口にした、あの時のこと。

わたし、人にこの話しても、結構平気みたい。


「母がね、父が亡くなってから毎日泣いてばっかりだった。何でもかんでも父に頼りっきりの人だったから。あ、そんな真剣に聞かないで。やだな辛気臭い」


おし黙ったまま神妙な顔で頷く夏目くんが、少しだけ笑う。
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