僕の星
「どうしたんだよ」

 急にしんみりする里奈の顔を、春彦は覗き込んだ。

「調子悪い? 腹でも痛いのか」

 優しい声。里奈は目の裏がじんわりするのを感じた。

「ううん、違うの。本当に、名前通りに育ったんだなと思って。何て言うか、こう……春そのもの、みたいな」
「春そのもの? 何か、ぼけ~っとした奴みたいだな」

 春彦が冗談めかすので、里奈は思わず笑った。彼の明るさは、まさに春の陽射しだと感じる。里奈はあらためて、春彦を生み育ててくれた千葉の両親に感謝した。

 南大門の前に来ると、里奈は鹿せんべいを買った。近くにいる鹿に一枚ずつあげると、ぺこりとお辞儀する。

「いい子だねえ。やっぱり楽しい!」

 せんべいをあげて喜んでいると、春彦がその様子をカメラに納めた。

「変わらないよな、里奈は」

 カメラロールを確認しながら彼はつぶやく。

「でも、さすがにもう、高校の制服は似合わないだろうな……」

 春彦は昨夜抱いた白い身体を思い浮かべている。でも里奈は鹿に夢中で、そんなことまったく気が付かない。

「お待たせ。行こうか、春彦」

 里奈が嬉しそうに近寄ると、彼は生真面目な顔で頷き、スマートフォンをポケットに仕舞った。
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