僕の星
「岐阜市の合宿施設で、7日間の集中課外授業。進学組のうち希望者のみが参加してる。僕は塾のほうへ行くつもりだったけど、名古屋に近い場所だったから、りっちゃんに会えるかな~と思って、参加したんだ」

 三田は律子を熱い眼差しで見つめながら、さらりと言う。

 進太は姿勢も微笑も崩さず、里奈を見下ろしている。
 アイスコーヒーが運ばれて来た。
 里奈はシロップもクリームも入れず、そのままストローで飲んだ。

「ブラックか。渋いな」

 進太が面白いことを発見したように、目を丸くする。
 気取った微笑みが消え、一瞬、18歳の少年らしい素の顔が表れた。

「それでね、里奈。進太君が、どーしても、もう一度あんたに会いたいからって、こういうことになっちゃったんだ。ホントにゴメンね」
「……はあ」

 佐久間進太の真意をはかりかね、再び押し黙る。里奈にはよく分からない話だった。

「君は僕のことが嫌いなのか」

 里奈が黙っているのが不服なのか、進太は率直に訊いてきた。
 本当に困ってしまう。
 嫌いかと言われても、佐久間進太のことをよく知らないのだから、返答の仕様がない。

 その時、なぜか頭の中に彼の顔が浮かんだ。
 いまや輪郭もはっきりとしない『滝口君』のイメージだ。
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