僕の星
「どうして、ガラスなんて……」
「まあ、話は戻るけどさ。聞いてくれよ」
「あ、待って。私、飲み物がほしい」

 暑くて、頭がクラクラする。ひとまず落ち着こうと思った。

「今度は私がおごるよ。何がいい?」
「……コーヒー。甘いのを」

 里奈の怒ったような態度に、滝口は逆らわないほうがいいと判断したのか素直に注文した。


 相変わらず陽射しが強く、木陰を出ると暑くてたまらない。自動販売機の前で時計を見ると、午後3時になろうとしている。

 里奈は昼ごはんを食べていないのを思い出すが、空腹ではなかった。それどころか胸がいっぱいで、何も受け付けられそうにない。

(そういえば、滝口君の下の名前をまだ聞いてない)

 彼について知りたいことは、まだまだたくさんある。でも、もう3時だ。いつまで話していられるだろう。それとも、まさか、ひょっとして、私は夢でも見ているのかもしれない。

 彼に会えるなんて奇跡もいいところなんだから。

 自動販売機から飲み物を取り出すのももどかしく、慌てて元の場所に戻った。
 滝口は石垣に腰かけ、涼しい顔で待っていた。
 里奈に気付くと、にこっと笑う。

「ああ……」

 無意識にため息を漏らし、里奈は思った。

「私、やっぱりこの人が好き」

 心からの気持ちを認める。
 ようやく彼に会えたのだという実感が湧いてきた。



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