虚無たちの葬失
「部屋が密室だったのは、凪紗が自分で鍵を閉めたからだよ。そして、窓を全て開け放したのも凪紗。彼女は……他殺に見せかけるために窓を開ける必要があったんだ」
「どういうことだよ」
和馬が純也に詰め寄るが、彼は聞こえていない様子で唇を引き結び、うつむいていた。
「凶器は?石は?あいつはなんのために自殺をしたっていうんだよ」
「自殺をした理由はわからない。でも……凶器がどこにあるのか、おおよその見当はつく」
和馬は瞠目して口をつぐみ、遥と純也を交互に見比べた。
遥が、壁に掛けられた十七時四十五分の時計を見て言う。
「凪紗の死亡推定時刻は、午後五時半から、六時の間だった。目撃者が、石を投げる凪紗を見たって証言していたよね。多分、凪紗は……石に裁縫道具の紐をつけて、体育館に向かって投げたんだよ。凶器を消すために」
黒板消しで白い文字の全てを消し去り、遥が校舎の壁とやや間隔をあけて体育館の壁を作図した。
隙間には約五メートルと書き、次に体育館の壁に平行して取り付けられている雨樋のパイプを二本の線で書き表す。
そうして遥は白いチョークを黒板についたチョーク入れに置き、中から黄色いチョークを取り出した。
遥は四階建ての校舎の壁から体育館の雨樋のパイプに向かって黄色い直線を引き、雨樋の中に落ちた直線の端に石を、校舎の壁を抜けた線の端に鋭い短線を描く。
また、遥は短線の横に立つ棒人間を描き、顔の部分にあたる丸の中に『凪紗』と書き入れた。
「この黄色いものは紐で、雨樋の中にあるのが水槽の石。そして……短い棒は、凶器。凪紗のカッターナイフ。凪紗は自分の首を掻っ切って手を放したんだよ」
「そんな……」
遥の説明に美緒は思わず卓上からおり、信じられない思いで図を眺めた。
「なんでそれだけで凶器が消えんだよ」
和真が苛立ちを含んだ口調で遥に問いただす。
遥が答えようとするのを制止し、美緒が和真の質問に回答した。
「糸の天秤みたいなものよ。カッターと石じゃ、石の方が重い。だから……凪紗が手を放したら、石は雨樋のパイプを落ちていく。紐で結び付けられたカッターナイフも……雨樋の中に……うそ、じゃあ、今も……?」
「多分、ある。三ヶ月経った今も……まだ凶器は見つかっていないから」
誠が厳しい表情で言い、赤い窓に歩を進めると校舎の東に建つ夕陽色の体育館を指差した。