虚無たちの葬失
「わかった?って、どういうことだよ、純也」
和真がロッカーから降り立ち、心底理解できないという顔つきで純也に歩み寄った。
遥がチョークを置き、目を伏せる。
和真を前にした純也は
「言葉通りの意味だ」
と言ったが、その面持ちに喜びはなく、彼は顔をこわばらせ、唇を噛み締めて血がにじむほどに拳を握った。
「……犯人探しなんて、“無意味”だった」
美緒が険しい顔で純也を見やり、誠は言葉の意味を考えようと頭に手を当てた。
純也、遥を除く三人は“あの日の真実”を理解できずにいた。
「どういうことよ、純也。彼女を殺したのは……犯人はいったい誰なの?」
「違うよ、美緒。……純也の言う通り。こういうことだったんだよ」
遥が白いチョークを手に取り、凪紗、と黒板の真ん中に記した。
数秒を置いて全てを察した誠が唖然とし、首を打ち振った。
美緒と和真が明確な三人の変化にまごついて視線を泳がせ、やがて互いの目を見つめ合う。
途端、純也の身体から力が抜け、窓ガラスにぶつかってよろめいた。
驚く二人を気もとめず、彼は重く暗い声色で真相を告げた。
「……凪紗の死は、自殺だったんだ」
その言葉は、布に一滴の水が染み入るようにゆったりと広がり散っていった。
え、と和真と美緒が声に出さず息を漏らす。
純也は視界の中で揺らぐ木目模様の床を見据えながら、心に波紋を描いて拡散していく途方もない虚無を感じていた。
やがて一滴の涙が、教室の地面を濡らす。
誠はそんな純也から目を背け、二人に諭すように言葉を縒った。
「……凪紗の死を自殺だとしたら、全部説明がつくんだよ。あの部屋に来るなと言ったことも、体育館に向かって何かを投げていたことも。……彼女の異変も」
「でも、自殺だとしたら色々とおかしいだろ。どうなってるんだよ。なんで凶器がなかったり、凪紗は体育館に石を投げたりしたんだよ」
「私が説明する」
混乱している和真に声をかけ、遥は複雑な表情で順序よく説明を始めた。
「……自殺だという最大の根拠は、部屋が密室だったということ。ミステリー小説だったらもしかしたら大仕掛けのトリックを使ったのかもしれない。でも、密室内で人が死んでいた場合、一番疑わしいのは自殺なんだよ」
「つまり、私たちが一番最初に考えなきゃいけなかったのは、自殺の可能性だったの?」
「……そういうことになるね」
遥が心配そうに眉を下げ、窓際で頭を垂れる純也を見つめた。
表情は夕焼け空の逆光で伺い知ることができないが、彼のほおには、透明な光が絶えず流れ落ちている。