虚無たちの葬失
「待って、八代さんって……女子バスケ部キャプテンの人よね」
「あー、そうそう。あの男子みたいなやつ」
和真が悪口とも捉えられかねない口調で言い、美緒が戒めるように眉を顰めて彼を睨みつける。
一方の和真は美緒の戒めを気にせず口を開き、
「伊藤の名前消して」
と遥に指示を出した。
「伊藤は凪紗が殺された日、体調不良で早退したんだってよ。それ以降はずっと家にいたらしいし、あの日俺らがいたのは部屋から遠く離れた唯一の校門の前だった。つまりは、俺らが伊藤のアリバイを証明することになる」
「じゃあ、残るは二人だね」
伊藤、の名前を打ち消して遥が振り向き、ポニーテールが振り子のようにたゆたった。
「私が先に話していたでしょ?」
美緒が口を尖らせ、しぶしぶという風に言葉をつなぐ。
「八代さんは放課後、女子バスケの部活に参加していたんだって。八代さんは女子バスケ部で一番声が大きいからいなくなったらすぐにわかるって部員の子が話してるのを聞いたわ」
「じゃあ、八代もバツか……残るは加島だけって訳だな」
和真がにやりと意地の悪い笑みを浮かべたが、誠が彼の微笑みを真っ向から否定する。
「加島もアリバイがある。その時間、加島はファーストフード店でバイトをしていて、同級生の数人がレジで働く加島を目撃している」
「自転車を使ったら休憩時間内に戻れたりとかしない?そんなに遠いの?」
遥が誠に尋ねるが、彼は残念だけど、と首を振った。
「自転車だとしてもここからそこまで二十分はかかるから、往復四十分だとしても可能性はかなり低くなる」
遥がためらいがちに加島の名前を消し、気づけば黒板に並べられた九つの名前の全てに斜線が引かれていた。
教室に静寂の波が広がる。
空は茜に暮れなずみ、蝉時雨のような校庭の笑声がいっとき鳴り止んだ。
誰かが落胆と諦念の入り混じるため息をつき、かたりと音を立てた。
「……アリバイのねえ奴、いねえじゃん」
最初に沈黙を破ったのは和真だった。
和真は肩を落とし、茶髪の頭を掻いて机から立ち上がるとロッカーの上に飛び乗って足を投げ出した。