白衣とメガネと懐中時計



時刻は23時を少し過ぎたころ。

もうほとんどの社員が帰宅してしまい、照明が落とされているが、あたしのデスクの周りだけは明かりが灯っている。

新入社員の頃は、この残業時間が不気味だったりしたのだが、もう8年も過ぎれば慣れてしまうものだ。

(株)夏目繊維
化学繊維を使った布を商品とする会社だ。

その開発部の研究員のひとりがあたし、稲村茉咲(いなむらまさき)。

大学で高分子化合物を学んだあと、この会社に就職して、合成繊維の主にナイロンについての研究と開発を担当している。

「あーあ」

身体を伸ばして、瞼を指でおさえた。
研究の邪魔になるからと、眼鏡からコンタクトレンズに変えてから、目が疲れやすくなった気がする。

研究では保護メガネが必需品だ。
普段からメガネを掛ける人だと、メガネOnメガネで邪魔になる。

< 1 / 12 >

この作品をシェア

pagetop