白衣とメガネと懐中時計


一応研究員には一人ひとつ、小さなデスクが与えられている。
そのあたしのデスクの上はものが乱雑している。

一冊4、5万はするおよそ1000ページの文献だとか、普段愛用する実験ノートや、ボールペン。

あとはメモ代わりのコピー用紙。
頭に浮かんだキーワードをメモするためのもの。

すでに、メモはかなりの言葉や式で埋め尽くされている。

しかし、納得のいく答えは導き出せていない。

あたしたち開発部の仕事は、新作開発だ。
しかし、その新作をいかにして、コストを下げて、質を高め、どこまで安全に作れるか、それらを考えなくてはならない。

白衣のポケットに忍ばせた懐中時計を見て、あたしはため息をついた。
日付が変わっての残業は禁止されている。

そのうち、巡回してきた警備員さんに怒られるだろう。
文献を資料室に返すために、立ち上がったときだ。

「その時計、まだ使ってんだ」

背後から声がして、あたしは文字通り飛び上がった。

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