君は世界を旅してる
5.


いつだったか、一条くんに聞かれたことがある。
どうしてわざわざ遠回りするんだ、もっと手っ取り早くお母さんの居場所を知る方法があるんじゃないのか、と。

その方法は簡単だ。数ヶ月前の夏の日、お母さんが家を出て向かった場所へ、一条くんに連れて行ってもらえばいい。

私だってそれはわかっていた。
だけどそうしなかったのには理由がある。

私が一条くんに協力してもらった理由は、お母さんが残した手紙の謎を解明したいからであって、今、お母さんがどこにいるのかを突き止めたいからではなかった。
これがまずひとつめの理由。

そもそも、いきなり居場所を突き止めたところで、私の知らないどこかの誰かと幸せな生活をしていたら。
そんな現実を突きつけられたら、きっとお母さんを責めずにはいられない。立ち直る自信がなかった。
これがふたつめの理由だ。

そして、みっつめの理由は。


「……ずるいと思ったんだよね」

屋上の手すりにつかまって景色を眺めながらそう言った。

「そんなの、反則だって」

一条くんは、私から少し離れたところに寝転がって空を見上げている。
今日も風が気持ちいい。

「だってね、一条くんと出会ってなかったらどうしたって知るはずなかったことなんだよ。見つけたって、お母さんもどうして見つけられたのか不思議に思うだろうし、なんだか卑怯に思えて出来なかった」

結局のところ、私は一条くんがいなければ何も出来ないのだ。
今まで一条くんと解き明かしてきたことは、私の力はどこにも影響していない。

「……でも、最初に協力してほしいって言った時点で、もうずるいことしちゃってたんだよね。最終的には今のお母さんに繋がっていく訳だしさ。それに、今はもう……」

手すりを握る手に、ぎゅっと力がこもる。

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