火恋 ~ひれん~
 朝目覚めたら。横に渉さんの寝顔があってギョッとした。
 ・・・誰かと一緒に眠るのも初めてだったし、その、彼が起きたらどんな顔したらいいんだろう、・・・・・・とか。
 思い出すと躰の奥がきゅんとして恥ずかしいのと、甘いようなくすぐったいような、・・・浮かれたいよう、な?
 自分で自分がよく分からない・・・・・・。
 戸惑って、というより困っていた。
 何から何まで初めて沸く感傷。・・・感情。分類しきれないのだ、脳内で。
 もう一度そっと渉さんの寝顔を覗く。
 ・・・・・・なんか無理・・・っ、色々なものがすっごく無理っ。
 枕に顔を埋めて小さく呻る。
 するとクスリと笑われた気配。
 顔を上げて横を見ると、可笑しさを堪えたような表情の彼が体ごとこちらを向いていた。

「・・・お前、さっきから何を百面相してるんだ?」

 ククッと今度は普通に笑われる。

「え・・・と、あの、ちょっとカルチャーショックでというか・・・」

 意味の分からない言い訳しか出て来ない・・・・・・。

「確か今日まで休みなんだろう?」

「はい」

「なら夜までゆっくり出来るな。取り敢えず風呂に入って・・・、朝飯はルームサービスでいいか?」

 言いながら渉さんは体を起こした。その背中いっぱいに描かれた、龍と桜の刺青。
 わたしの視線に気が付くと、「あとで流させてやるからゆっくり観察しろ」と悪戯気に言ったのだった。



 ちゃんと独立したバスルームは、二人一緒でも十分な広さだった。
 バスタブにお湯を張り、彼に背中を預け後ろから腕を回された格好で浸かっている。のだけれど。
 今更なにを、と思われても、恥ずかしくて恥ずかしくて本当に居たたまれない。何か話そうと思っても、自分でも制御不能な言葉が飛び出しそうで怖くて口も開けない。無言になって渉さんの腕の中でひたすら固まっているだけ。
 
「・・・・・・織江」

「はい・・・?」

 振り返る事すら出来ず、恐る恐る返事をする。

「・・・俺が湯あたりする前に、背中流せ」

 ・・・はい。ゴメンナサイ・・・。
 

 
 どこからか、渉さんの心の溜息が聴こえた気が・・・・・・。



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