火恋 ~ひれん~
 食事をした後、車が向かった先は湾岸沿いのシティホテルだった。
 フロントでチェックインを済ませた渉さんは、12階の部屋に着くまでずっとわたしの肩を抱いている。その間・・・緊張して心臓はバクバクだし、思考回路はほぼ全滅していたように思う。

 部屋の中に入り背中でドアの閉まる音が聴こえた。ダブルのベッドが目に映った瞬間、その場で足が止まって。渉さんが訝しそうにわたしを見た。
 怖いとかそういう感情とは違う。
 他人と。こんな風に触れ合うのは長いこと忘れてしまってた。どうしていいのか分からない。彼は慣れているのだろうから、無作法なわたしに失望するかも知れない。嫌われたらどうしよう。どうしよう・・・っ。

「・・・織江」

 渉さんが近付いて来る。

「あ・・・の、わた、し」

 顔も見られなくて俯いたまま。小さく震えてるのを、彼は一体どんな心境だったろう。

「その・・・あまり、経験がない・・・ので」

 消え入りそうな声でやっとそれだけを云うと。溜め息が漏れた気配と同時に、やんわりと包み込むように抱擁された。 

「・・・あのな」

 とても静かで優しい響き。初めて・・・聴いた。

「云っただろうが。俺が織江を抱くんだ。お前は・・・何も考えずにただ感じてろ。心配しなくていい、何もな・・・」
 
「渉・・・さん・・・」

 顔を上げると深い眼差しがわたしを見つめていて。
 キスを繋げながら躰ごと抱き上げられた。そのままベッドに横たえられ、後はもう。渉さんにされるがままだった・・・・・・。




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