火恋 ~ひれん~
 その後で。服を着たまま躰でも誓わされた。
 渉さんが赦すまでは勝手に死ぬな、と。

「・・・お前は俺のものだ。二度と俺に・・・逆らうな」

 俺を遺して逝くな。
 ・・・そう聴こえた。
 



 気掛かりがあった。
 彼が答えるかは低い可能性だった。畳で座椅子に胡坐をかいた、渉さんの膝枕で躰を休ませているわたしは・・・敢えてそれをぶつけてみる。

「・・・何かあったんですか?、お仕事で」 

 渉さんのマンションで暮らすようになって三ヵ月を過ぎたけれど。これまでにわたしを遠ざけようとした事は、一度だって無かった。
 昨日もホテルに着いてすぐ、わたしを藤君に預けたのを思えば、何か深刻な問題でも起きたのかも知れない。
 結局わたしが押し切って渉さんは不承不承、傍に居るのを赦してくれた。そのうえ彼の枷になるつもりは無いから。その為にも知りたいと思った。

「だからわたしを」

「織江は余計な心配をしなくていい」

 やんわりと。けれど有無を言わせない強さでわたしの言葉を遮って。つまりそれが答え。

 不安がじわじわと滲み出て来る。何か彼にとって良くない事が起きている。渉さんがこれ以上何も云わないのは承知している。だからもう訊かない。わたしに出来ることは一つ。渉さんを信じて、いつもの織江でいること。何があっても笑顔で迎えて、このひとが望むままのわたしでいること。


 貴方の為に、死に場所を間違えないこと。
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