火恋 ~ひれん~
 渉さんは眉間に厳しさを漂わせ、その沈黙を解くまでの気配もとても重厚に感じた。
 彼に。どう届いたかはわたしには計れない。けれど少なくとも、想いを真剣に受け止めて貰えた・・・と信じたい。

 一点を見据えるように動かなかった眼差しがこちらを向いて。視線がぶつかり合ったまま互いに言葉は無かった。そして彼が肩で溜め息を逃し、眸の気配を僅かに和らげたのだった。

「・・・・・・全く、お前は」

 苦そうに。それでもまだ十分に、きつさを残して渉さんは思い切り眉を顰めている。

「肝心な事は聞き分けが無い。少しは俺の身になれ」

 不本意、心外、無念、痛恨。・・・そんな恨み節が聴こえてきそうな。

「・・・今回だけは聞いてやる。次にまた命を盾にするような真似をしてみろ、たとえ織江だろうと・・・二度と赦さんぞ」 

「・・・・・・はい」 

 本当に分かっているのか、とでも言いたげに横目でじろりと睨めつけると、・・・俺も焼きが回った、と渉さんは自嘲気味に呟いて。
 少し乱暴にわたしの頭の後ろを掴まえて引き寄せ、息も絶え絶えになるほど長いキスを。貪り続けた。
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