リアルな恋は落ち着かない
すると。

「・・・橘内さん」

左の頬が、大きな手に包まれた。

そのあたたかな感触に、応えるように顔をあげた。

「そういう顔をさせるつもりじゃなくて。先走ったオレが悪い」

「・・・ううん・・・」

「ほんとに。橘内さんはそれでいいし・・・ある意味、よかったなって思うけど。ただ、嫌われたかなって、オレが不安になっただけ」

真っ直ぐに見つめられ、身体がとろけそうになる。

勇気はないのに、もっと近づきたいと思う。

私はとてもわがままで、そして多分、とても幸せなのだと思った。

「今日はもうなにもしないし。今度はちゃんと、橘内さんの気持ち考えるから」

「うん・・・」

彼の気持ちが嬉しくて。

左頬にある彼の手に、私は、自分の手をそっと重ねた。

すると彼は驚いたような顔をして、瞬時に顔を赤くした。

「・・・やっぱ、やばいな」

彼が呟く。

そしてわずかに視線を外した後で、私に軽くキスをした。

ほんの一瞬、甘い衝撃。

重ねていた手もなにもかも、私にあった全ての力は、すぐに抜けて落ちてしまった。

「・・・ひとつだけ、約束してもらっていいですか」

私の頬に触れたまま、五十嵐くんが呟いた。
< 273 / 314 >

この作品をシェア

pagetop