好きだと言えたら[短篇]
「…んなこと、ねぇし。」
1日を100パーセントに例えたら90パーセントは全部お前のことを考えてたよ。今、何してんだろうって、今誰と話してんだろうって、
今、何を考えてるんだろうって。
「哲平、もう良いよ。…嘘は、いらないから。」
震える声で返ってきた言葉。
そして精一杯抱きしめていたはずなのに意図も簡単に俺の腕から抜けてしまった体。
「朱実」
「良いの!離してっ」
もう一度、
そう思って伸ばした手すら、今度は拒否される始末。
ドスっ
余りにもいきなりの事だったので尻餅までついてしまった。
すーっと
消えた温もり。
残ったのは冷たい空気だけ。
痛いはずの尻も
胸の痛みの方が勝り感じなかった。
「…んだよ。」
「…。」
やっぱり、遅かった。
残るのは後悔ばかり。
あの時、こうしておけば、あの時、あぁ言っていれば。ってそんなことばかり。
馬鹿だな、俺。
でも、馬鹿馬鹿なりに最後まで足掻いてみよう。
ポトリと
涙を一滴落とすと、朱実は俺に背を向け家に入るため歩き始めた。
「…~だ。」
届け。
「…バイバイ、哲平。」
届け。
「好きだって言ってんだよ…」
誰もいない道路に、俺の声が響く。