好きだと言えたら[短篇]
そう、気が付いたら呟いていた。
静かな夜。
微かな声でさえ朱実に届く。
「哲平…だからそういうことは好きな子に…」
「…っ!だから、言ってんだろ。」
お前が、お前が好きなんだよ。
諦められないくらいに、みっともない姿曝け出してでも、お前のこと、諦めらねぇんだって。
頼むから。
「…行くなって言ってんじゃん。…それとも好きな奴、出来たわけ?」
ふと、頭を過ぎったのは修輔という文字。そう、朱実の電話の相手。もう、もう遅かったのだろうか。朱実はもう
… ア イ ツ ガ ス キ ?
邪魔者は俺、なのかもしれない。
今さら、今さら彼氏振るなんて卑怯なのかもしれない。
それでも
「んなの、許さねぇから。」
ガキみてぇだって良い。
呆れられても、かまわない。でも、頼むから他の男のところなんて行くなよ…っ
きゅっと
俺の背中に手が回った。
それはまさしく朱実の腕で。そして俺の胸に顔を埋めて言葉を紡ぐ。
「…ずっと、ずっと哲平が好きだったよ。でも、哲平は違った。…私のことなんてどうでも良かったんでしょ?」
朱実の本当の声。
泣いているのか微かに声が掠れている。