好きだと言えたら[短篇]
いつか、いつか
朱実はこんな俺に愛想を尽かしてしまうんじゃないか。
「…笑えねぇし。」
笑えない。
朱実が、いなくなるなんて。
でも、俺は止める権利があるのだろうか。こんなに、冷たくて優しくもない男よりももっと朱実にふさわしい男がいるんじゃないだろうか。
「…。」
香る美味そうなにおい。
俺は部屋着に着替えると朱実の待つリビングへと向った。
「はい。…出来たよ。」
俺の前の前に出された美味そうなハンバーグ。
朱実は笑顔で俺を見つめる。そしてほんのり頬をピンク色に染めながら俺に問いかける。
「おいしい?」
美味いに決まってんじゃん。
朱実の作ったのがマズイわけねぇだろ。
「…普通。」
って、何言ってんだよ俺。
美味いって言えよ!
口から出る言葉は全部全部、俺が思っている正反対の言葉で。そのたびに微かに朱実が悲しそうな顔をする。
「あ、」
朱実、そう呼びかけるはずだった。でも
ブーブーブーっ
タイミングよく振動した朱実の携帯。チラリと怒りの視線を携帯にぶつける。
…………は?
チカチカと点滅するピンクの携帯。鮮やかなランプの色が俺の目に鮮明に写る。でも、それ以上に俺の目に鮮明に映ったのは…
「ご、ごめん、ちょっと。」
机の上から一瞬にして消える携帯。そして、その携帯を持ったままそそくさと隣の部屋に消えてしまった朱実。
「誰だよ。…修輔って」
確かに表示された男の名前。
知らない、名前。
ぐっとフォークを握る手に力が入った。