迷走女に激辛プロポーズ
第八章 ハッピー・ビギン?
口を塞いだ佑都と塞がれた私。二人の睨み合いはしばらく続いた。
そして、先に目を逸らせたのは佑都だった。

「――ごめん……悪かった」

俯き加減に小さく謝る。
何度目のゴメンだ! ちょっとイラッとする。

「お前が喜ぶと思って……アイツ、本当に有名なデザイナーだから……」

言葉を切り、また「ごめん」と謝る。

「確かにそうだ。お前の気持ちを考えていなかった。怒るのも当然だ、無神経だった。すまない」

私だって、あのシーンを見なければ、何も知らず無邪気に喜んでいただろう。
だから尚更だ! 浮かれたその姿を想像するだけで腹が立つ。でも……。

私の口を塞いだまま、佑都は私の頭を自分の胸に引き寄せ、抱き締める。
トクントクン。耳が彼の鼓動をキャッチする。
その音が哀し気に聞こえるのは……私の願望だろうか。

見上げると、佑都の瞳が不安気に私の瞳を覗き込む。
願望じゃ……なさそうだ。

まったく、そんな目で見られたら、こっちの方が切なくなるだろう。
心の中で溜息を付き、口を塞ぐ佑都の手を両手でゆっくり外す。

一言も話さず床に落ちたビジネスバッグを開け、中から彼のと同じようなケースを取り出す。そして、それを佑都の目前に差し出し蓋を開ける。

彼は目を見開き、私とそれの間に何度も視線を走らせる。
彼の瞳をシッカリ見すえ、私は訊ねる。

「だから……ペアリングを買ったの。私の気持ち……これを嵌めてくれる?」
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