迷走女に激辛プロポーズ
スレンダー美人と戦わねば! 佑都は渡さん!

あの後、映画館を飛び出した私は、近くのジュエリー・ショップ“煌(KOU)”に飛び込んだ。

『ペアリング下さい!』

戦士のように勇んだはいいが、頭に浮かんだアイディアはこのベタな案、ただ一つ。

きっと店主、マダム煌は驚いたに違いない。

閉店間際、血相を変え飛び込んで来た客に……。
血走った目で、今にも泣きそうな見るも無残な女に……。

だが、マダム煌は熟女の余裕で、顔色一つ変えず親切丁寧に接客してくれた。

その甲斐あって、とてもシンプルだが、内側に小さな誕生石が埋め込まれた理想的な指輪と出会えた。

人生で一番高い買い物だったが、一番価値ある買い物だった。
なのに……まさかあの女が、著名なメイ・槇原だったとは!

そりゃあ、私だって女だ。あのジュエリー作家の作品と聞けば、本音を言えば……喉から手が出るほど欲しい。

でも、いいんだ……。
私は佑都の腰に腕を回したまま、左手で右手の指輪を撫でる。

『イニシャルをお入れできます。今日はお時間がなさそうですし、次回、お二人でお立ち寄り下さい。いつでもお待ちしております』

マダム煌は『二人で』と言ってくれた。
彼女にとっては他愛無い一言だっただろう。でも、独りぼっちで、泣きたいほど心細かった私にその言葉は、『頑張れ! 負けるな!』という温かなエールに聞こえた。

だから、加勢を受けたこの指輪は、著名な彼女の指輪よりズット価値がある。

佑都のキスを受けながら、メイ・槇原、打ち破ったり、とニンマリする。
そして……彼は私のもの、というように腰に回した腕にギュッと力を込める。
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