迷走女に激辛プロポーズ
「ブラボー」

曲が終わったらしい。
男性の声に続き、大きな拍手と指笛が耳に届く。

「ほら、食べろ」

佑都が最後の厚焼き卵を唇に押し付ける。
今度はちゃんとお箸を使って。

「お前とは、同期として飯友として過ごしてきた」

唐突に話し始める佑都。

「だから“結婚”という言葉に戸惑いを見せるのは当然だ。少し譲歩してやろう」

何だ、その上から目線!

「恋人期間という名の付き合い期間を設ける。この間に俺のことを知れ。そして、答えを出せ。特典として諸々の費用全て俺が持つ、でどうだ」

――でどうだ、と聞かれても……特典付きの恋人って、高い壺を売り付ける宗教団体ぐらい怖くないか?

ゴクンと厚焼き玉子を飲み込み、フムと考える。
だが、費用の下りは魅力的だ。

私の趣味は貯金と食べ歩き。
生涯独身の将来安定のため、日々、貯蓄に励み、財テクに頭を悩ませている。

「昼食代とか! 夕食代とか?」

なのにこのところ仕事のストレスから食欲が増し、エンゲル係数が右肩上がり。逆に、毎月の貯蓄額が右肩下がり。この状態が更にストレスを増長させ、悪循環を繰り返していた。

それもこれも佑都が鬼のように仕事を振ってくるからだ!
よく考えれば、根源はコヤツだ!
< 22 / 249 >

この作品をシェア

pagetop