迷走女に激辛プロポーズ
「ああ、当然だ。ランチに重役連御用達『三つ巴』の豪華三段重でもいいぞ」

ナヌッ! あの幻の仕出し弁当! 一個四千五百円(税別)もする弁当をか!
その言葉で私の心は決まった。

そうだ! 私は彼から賠償を受ける権利がある。
まぁ、幾分逆恨みとも言えなくはないが……それはそれだ。

「よし、乗った!」

元気な返事に佑都はクスッと笑い、それから怖いくらい真面目な顔で言う。

「乗ったからには、途中下車は許さないからな」

そして、その言葉のあと、悪代官並みの悪い笑みを浮かべた。

しまった早まったか、と一瞬後悔するが、取り敢えず受けたからには責任は持たねば、となぜか仕事モードの私が返事をする。

「了解です、白鳥課長!」

何で課長なんだ、と訝し気な顔をしながらも私の返事に満足したのか、佑都はおもむろに左手首の時計を見る。パティックフィリップ。高級時計だ。

「七月七日、午後十時四十五分。今から飯友じゃなく恋人同士だ。よろしく、マイ・ハニー。そろそろ帰るぞ」

マイ・ハニーは聞かなかったことにして、今からということは……私は満面の笑みで、早速「ご馳走様」と頭を下げる。

この安易で打算的な決断が、翌日恐ろしい展開を生み、その後の私を散々に翻弄するとも知らず……。
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