迷走女に激辛プロポーズ

「少々よろしいかしら」

佑都と私は同時に顔を上げる。
声の主は美貌の竜崎清香だった。

このお方、フェロモンダダ漏れの目も眩むような美女。年齢不詳。未婚既婚不詳。とってもミステリアスなお方なのだ。

「竜崎課長、何か?」

だが、心に最愛の女性を持つ佑都は、一ミリも顔を緩めることなく、クールフェイスを保ったまま事務的に訊ねる。

「メディア向けにアピールする、例の映像出来上がったかしら?」
「ああ、フランス大使館から依頼の有った、チョコのですね」

清香が頷くと、栗色の巻き髪がフワリと揺れ、甘い香りが辺りに漂う。
何の香りだろ、クラクラするほど悩ましい。

同性でもそう感じるのに、佑都は変わらず無表情のままパソコンを操作する。
最愛の人への一途な気持ちを感じ、キュッと胸が締め付けられる。

佑都は進行状況を、管理スケジュール画面で確認し終えると言う。

「三日後仕上がります。土日を挟んで、来週月曜日の打ち合わせ会議でご覧頂けます」
「そう、ありがとう。大口でしょう。上がピリピリしちゃって、課も落ち着かないの。で、わざわざ来ちゃった」

テヘペロまではしないが、肩を竦め小首を傾げる清香は……超絶キュート。
滅多に近付けない美女を、コソッと観察していると、清香がいきなり私に視線を向ける。

瞬時に硬直する私。
やはり彼女は、噂通りのメドゥーサだ!
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