迷走女に激辛プロポーズ
第三章 一緒に住もうか?
亡き婚約者は私より五歳上の幼馴染だった。
家族ぐるみの付き合いで、両親も兄も彼のことを可愛がっていた。

兄と私は一回り違い。だから、日本と海外を行ったり来たりしていた私にとり、帰国した時、変わらず接してくれた彼は兄より兄らしい存在だった。

だからだったのかもしれない。高校の卒業日、交わされた婚約を当然のように自然に思ったのは……。

今考えれば、私は夢見ていたのだ。“愛”と“愛情”を履き違えた姫物語を……。

私たちの初めてのキスは、婚姻届けを受け取った大学の卒業式の日だった。
唇に触れるだけのフレンチキス。

挨拶程度のキスだったのに、あの時、彼は耳元で囁いた。
『君との初夜が楽しみだ』と。

その顔は、欲望溢れる“男”の顔だった。
彼が獣に見え、“嫌悪”と“恐怖”が生まれた。

その時ようやく気付いた。リアル世界の姫物語は、バーチャル世界のように美しく『めでたし、めでたし』で終わらないことを……。

別にカマトト振っていたわけではない。
当時、私も二十歳を超えた大人。男女の営みぐらい知っていた。

だが、私と彼が……と考えると、それは非現実的なほど有り得なかった。
彼が大切な人には変わりなかったが、大切な“男”には成り得なかった。
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