迷走女に激辛プロポーズ
彼は気付いていなかったようだが、私は彼の女性関係を全て知っていた。
別段知りたくもなかったが、彼が付き合う女人たちは、皆、親切だった。デートの度、逐一報告を入れてきたのだ。

そこに昔も今も嫉妬は無い。ただ、今なら分かる。男の性を他所で愉しんでいたからこそ、私の身体を姫のように大切にできたのだと。

その優しさみたいなものが、私を愛するが故だったのかは、もう知る由もない。

当時の私が切に願ったのは、結婚しても今まで通り綺麗なままの関係でいたい、だった。

そんな願い、叶う筈もないのに……それなら婚約を破棄して結婚事態止めてしまえば良かったのに……。

だが、私はその決断を下したくなかった。
大切な想い出を失うのが恐かったから……独りぼっちになるのが恐かったから……。

私は自分勝手で卑怯な人間だ。
婚約者に対する小さな裏切りと大きな悔恨……その思いが私を苦しめる。

今も心に居続ける彼は、私にとって変わらず大切な人だ。
でも、昔のように無邪気に『最愛の人』とは言えない。

そう、“愛”はそんなに軽々しいものではないと知ったから。
佑都の“最愛の人”への誠実な想いを知り、それを悟ったから。

彼の“想い”がなぜ成就できないのか分からない。
でも、真っ直ぐで一途な彼の気持ちは五年前から全く変わらない。

その想いも私を苦しめる。
心に持つ“思い”と“想い”の違いに……『最愛の人』を心に持つ彼に……。

最愛の人。愛って……愛するって……愛されるって……何を以て言うのだろう。
私も佑都のような気持ちをいつかは持てるのだろうか……。
< 44 / 249 >

この作品をシェア

pagetop