あなたとホワイトウェディングを夢みて
出勤した郁未から何故女性物の香水が漂うのか、しかも、柑橘系の香りにアルコールのような匂いも微かに混ざっている。会社で仕事をし終えて早々に帰宅したのか、或いは自分を気にかけて寄ってくれたと思い込んだ留美だが、それは見当違いだと思い知る。
そして、改めて郁未がプレイボーイだったのだと思い出す。
「専務、ご迷惑をおかけしました。すっかり体調は元に戻りましたのでもう一人でも大丈夫です。ありがとうございました」
そう言って留美はソファから立ち上がると郁未の方へ向き直り、深々とお辞儀をして二人が上司と部下であると態度で示した。
「ダメだ」
このまま留美を帰せない。郁未もソファから立ち上がり留美の両肩を掴み抱き寄せようとした。しかし、その手を留美に拒まれる。
「留美」
「私は専務の部下です。これでは他の社員に示しが付きません」
あくまでも部下と言い張る留美は応接テーブルに置いていた自分のバッグを手に取り、『帰ります』と冷ややかな声でそう言うとリビングルームから出て行く。
廊下へ出た留美の姿が見えなくなると、郁未の脳裏に父親の俊夫のほくそ笑む姿が浮かび上がる。それと同時に留美の笑顔も浮かび郁未は居ても立ってもいられなく、留美の後を追って玄関へと駆けて行く。
郁未が玄関へやって来ると、留美は玄関土間に並ぶ運動靴に足を入れ爪先をトントンと靴に慣らしていた。靴を履き終わると留美は郁未の方へと体を向け、郁未の顔を見て一言お礼を述べる。
「お世話になりました」