あなたとホワイトウェディングを夢みて
「留美?」
さっきまで蕩ける顔をしていた留美なのに、いきなり突き放され郁未は驚きで目を見開いていた。
「とても素敵な香りの香水だわ」
「いや、その……これは」
ここへ帰ってくる前、ホテルで女を誘惑した。熱い口付けを交わしたが相手の女が留美ではないことに、その後、やけになって酒を飲んだ。だからと、そんな事実を留美には言えない。郁未は言葉に詰まると顔から血の気が引いていく。
「恋人とゆっくり過ごして来れば良かったのに。お邪魔して申し訳ありませんでした」
留美の冷ややかな笑みが郁未の心臓を貫く。
何も言い返す言葉が見つからない郁未は、引き留める術をもなく留美を自分の部屋から帰らせてしまった。
「俺は何を間違えた……?」
玄関に一人ポツンと取り残された郁未は呆然と立ち竦んだまま動けない。
女を捨てることは日常茶飯事でも、自分が捨てられ女が去って行くのは初めての経験だ。郁未は心中穏やかでない。
「留美……」
何故かここでまた俊夫の顔が浮かぶ。
けれど、留美は俊夫の賭けの対象として愛して良い女ではない。他の女とは何かが違うと心の中で叫ぶと、靴を履き玄関ドアを押し開き、エレベーターホールへと駆けて行く。他の階へ向かっているエレベーターが戻るのに時間がかかる。郁未は、隣に併設されている非常階段へと行くと、数段飛びで階段をエントランスのある一階まで駆け下りて行った。
しかし、郁未がエントランスへ着いた時、留美を乗せたタクシーが走り去っていく。