あなたとホワイトウェディングを夢みて

 それから、それほど時間を要せずに郁未のマンションに到着した二人。
 自分のマンションまで送ってくれた聡を部屋へ招くこともせず、とんぼ返りをさせた郁未はエレベーターに乗り、自分の部屋のフロアで降りる。
 フロアの奥にある自宅。その玄関の前に立つ郁未。ドアノブを握りしめた手が一瞬止まる。ほんの数秒だが微動だにしない。
 軽く息を吐いた郁未がドアをゆっくり開けていく。
 ついさっきまで小汚い靴が土間に並んでいたが、今は何一つない冷ややかな空間があるだけ。

「新しい靴くらい買えばいいのに……」

 小汚い靴に似合いのジャージ姿の留美。屈託なく笑う留美の姿を思い浮かべ、郁未はフッと笑みが零れる。玄関ドアを閉めると、靴を脱いで寝室の方へと行く。
 寝室に入ると、一間はあるクローゼットの扉まで颯爽と進み折り戸を開けた。着ていたスーツを次々に脱いでハンガーにかけていく。下着姿になった郁未は、着心地の良さそうなシャツを取り出し袖を通していく。そして、穿き崩したジーンズに着替えた郁未は、スーツの上着から携帯電話を取り出すと、クローゼットの折り戸を閉め寝室を出て行こうとした。そんな時、ふと郁未の目がベッドへといく。
 今朝、ベッドで目を覚ました時、隣には留美がいた。柔らかで爽やかな香りの留美をこの手に抱き目覚めた。その時の光景を思い浮かべる郁未だが、それが遠い昔の出来事に思える。

「留美……」

 思わず口ずさんだ名前。その名を口にするだけで胸が焼け付くように熱くなると、手にした携帯電話をギュッと握り締めた。
 手の平に汗が滲むのを感じた郁未は携帯電話をベッドへ放り投げ、自らも布団にダイブし枕に顔を埋めた。

「留美の匂いだ」
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