あなたとホワイトウェディングを夢みて

 半ば叱責されたことに鈴木課長は表情を曇らせ、かなり不満げな様子を見せた。その態度が気に入らない郁未は課長を横目に情報処理課から出て行く。
 すると背後から課長の田中への苦情が聞こえてくると郁未の足が止まる。

「佐伯君は最近弛んでいるようだな。その度に専務に叱られてはこちらが堪ったものじゃない」
「でも、佐伯さんは優秀なプログラマーですよ。こんなミスはしないと思うんですが」
「とんでもない。危なっかしくて、一人で任せられないから、私が佐伯君の仕上げたコードを逐一チェックしてるんだぞ」
「まさか課長が勝手に佐伯さんのプログラムを弄ったんですか?!」

 留美を見下す課長に呆れて田中が声を荒げる。二人のセリフを聞いた郁未は舌打ちすると情報処理課を後にした。
 その日は結局深夜まで残業を余儀なくされた田中。プログラムの不具合の原因が課長にあると確信したものの、それを専務の郁未に告げることに躊躇し、不具合の修正が終わったことだけを報告した。
 田中にとっては憧れの専務。郁未の気を惹きたいのはやまやまだが、今回ばかりは浮かれることは出来ず仕事に集中してしまった。
 そして、翌朝、会議前の専務室。
 田中にプログラム不具合の件を聞いた留美が、出社後、専務室へとやって来ては即座に謝罪し、仏頂面をして座る郁未のデスク前で小さく縮こまり頭を下げていた。

「今回は大事な企画のプログラムだ。この前のExcelの表とは重要度が違う」
「申し訳ありません」

 課長が手を加えたことで不具合が起きたと、事実を知らずに留美はひたすら自分の落ち度を謝罪する。この時ばかりは流石の留美も借りてきた猫のように静かに頭を垂れている。
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